「ICT国際プロジェクト教育科目の開発」
  -体験的に国際性と実践力を身に付けることを目的とする国際プロジェクト型授業の開発-
実施報告 (Report)

取り組み概要

本プログラムでは“国際性と実践力”に優れた高度専門技術者・研究者の育成を目的として、大学院博士前期課程学生を対象とし、海外複数大学学生の混成チームによるICT分野の課題解決を行うプロジェクトベースラーニング教育科目を設計する。1年間の取り組みにより、2つの課題設定、インターネットを活用した複数大学学生コラボーレションシステムの開発、中国北京郵電大学および韓国情報通信大学と次年度からの大学院授業として国際連携授業に関する提携交渉および正規授業としての整備を行った。

本授業では国際連携効果を最大限活かしたうえで、現実的な形で実現するために、2回の集合授業とその間の開発にインターネットを活用する構成をとした。また、そのうち一回を本大学が従来から取り組んでおり、国際会議や学生交流を行う日中韓三カ国の連携フォーラム、ICTトライアングルフォーラムの一環として行うことで、交流に伴う経費負担や出張のために費やすための時間などを節約する工夫も行う。


開発課題

本プログラムでは、電気通信大学と海外大学の学生が連携して課題解決するプロジェクトベース型の授業であり、平成20年度にはこれらの課題の設計を行った。ここでは情報通信技術(ICT)を代表する2つのプロジェクトとしてディジタルシグナルプロセッサ(DSP)を利用した課題(課題1 PBL-DSP)、無線センサーノードを利用した課題(課題2 PBL-WN)の2つの課題設計を行った。それぞれの課題の概要を以下に示す。
     
  1. 課題1「DSP」(PBL-DSP)
    DSPはディジタル信号処理を実行する信号処理装置のことを示す。DSPはプログラムにより信号処理内容を変更させることが可能であり、さまざまな信号処理を再構成可能な形で実現することができる。そこで、本プロジェクトでは信号処理がプログラムにより適応変更可能なことに注目し、このプログラム設計をPBLの課題の1つに設定した。本年度は現実的な開発時間で、効果的に問題に取り組むことを考え、信号の遅延成分が伝達する音声信号に影響するエコーに注目し、そのエコーを除去するフィルタの設計(エコーキャンセラ)についての課題設計を行った。ここではTI製の浮動小数点演算ディジタル信号処理開発キットDSK6713Cをディジタル信号処理ボードとして選択し、雑音や遅延を除去するためのプログラム開発を複数大学の学生が連携して行うものとした。ここでは平成21年度からの授業開始のための準備として、試行する学生を決定し、その学生が実際にDSPエコーキャンセラを設計、開発することで課題の詳細設計と問題点の抽出を行い、その対策の検討を行った。
  2. 課題2「ワイヤレスネットワーク」(PBL-WN)
    ワイヤレスネットワークの課題はワイヤレスに関する実践的な技術と理論的技術の習得を目指して、ワイヤレスセンサボードを活用したネットワーク開発を行うものである。本課題ではSun Microsystemsが提供するSunSPOTと呼ばれるプログラミング可能なセンサノードを用いて、無線ネットワークを適応的に動作させる。本年度は来年度からの授業として、わかりやすく取り組みやすいテーマであり、かつワイヤレスネットワークのさまざまな技術が学べる課題として、センサノードを複数用いて、離れた場所に設置するリモートコントロールカーを制御し、指定のコースを走行するというものを検討した。ここでは複数のセンサノード間をパケット中継し、適応的に干渉や不良ノードを避けながら模型の車を動かすというものであり、ワイヤレスネットワーク、車両制御共に工夫したプログラム開発を複数の大学学生が連携しておこなうものである。ここでは平成21年度からの授業開始のための準備として、試行する学生を決定し、その学生が実際にワイヤレスネットワークを構築し、リモートカーを走らせることで、課題の詳細設計と問題点の抽出を行い、その対策の検討を行った。


活動実績

平成21年度授業開始を目指して、本プログラムでは、
    ① 2008年10月に韓国で連携3大学が主催するICT Triangle Forumにて、本選定取組の関係者が集合する機会に、事業の構想と実施計画を中韓両代表へ本学より提案すべく、学内で会合を9回に亘り開き、選定取組の目標、実施方法、要員、経費負担、実施線表等の基本計画を検討した。
    ② 上記中韓両代表へ提案する資料を作成準備し、ICT Triangle Forumにて提案、協議のうえ、検討体制・連絡体制を確定し、来年度の実施に向けて必要な検討を行った。
    ③ 国際プロジェクト科目群として信号処理部門、ネットワーク部門及びセキュリティ部門を置くこととし、それぞれの部門の明確な教育目標を定め、実施可能な教育内容を検討した。
    ④ 各部門の教育内容案に沿ったPBLのテーマを選定し、各科目のシラバス案を作成するとともに、試行を通して本実施段階で問題が生じないよう準備を進めた。3大学間で学生主体のPBL連携作業が可能なよう、インターネットによる遠隔地点間コラボレーションシステムの準備を進めた。
    ⑤ 本補助事業により客員教員2名を雇用し、本選定取組の実施計画案作成、当該3科目の講義用教材及びPBL用ハードウェア、ソフトウェア等機材の準備を進めた。
    ⑥ 学内の留学生および日本人学生を対象とした模擬講義およびPBLを試行し、適正規模、技術的問題点等を把握し、解決策を検討した。また2009年2月に中韓連携大学の代表教授各2名を本学へ招聘し、PBL試行状況を説明、次年度の本実施に向けた各大学の実施体制づくりを協議した。
    ⑦ 本実施に向けての連携大学の運用体制、教育内容、PBLテーマ、関連講義およびPBLの実施方法、連携大学間のコミュニケーション方法等の実施計画をまとめ、本実施までに解決すべき課題を整理、検討した。
    ⑧ 次年度の本補助事業の実施計画を策定した。
    ⑨ 本選定取組に関する平成20年度報告を作成するとともに、その成果を公表した。主要事項については英語の資料化を行った。



次年度計画

本プログラムは平成21年度より、ICTに関する国際PBL授業を大学院博士前期課程の正式授業としてスタートさせることを目標に取り組んだ。平成21年度からスタートさせるため、学内の大学院教務委員会への授業提案および了承。海外連携大学として中国北京郵電大学および韓国KAISTを選定し、集合授業に対する準備行った。結果として本プログラムでは、大学院国際PBLという名前の講義として平成21年度から実施されることが決定した。 次年度はWN-PBLとDSP-PBLの2つをそれぞれ各大学から5名程度ずつの学生を集め実施する予定である。具体的な授業計画は以下の通りある。
    1) 国際性涵養に関する授業(グループ討議) 8月上旬
    2) PBL遂行のための事前知識習得に関する授業 8月下旬
    3) 第一回3大学合同の集合授業と学生主体のグループ討議、外国大学生との集合授業とグループ討議 10月 Triangleフォーラムと併催で実施
    4) 遠隔プログラム開発 インターネットを使った遠隔プログラム開発の実習
    5) 第二回3大学合同による成果発表と評価、表彰 外国大学生との集合、デモンストレーション